認知症とクスリ

団塊の世代が後期高齢者となる2025年(令和7年)には、65歳以上の約5人に1人の割合まで認知症の患者数が増加して、その約3分の2がアルツハイマー型認知症であると推計されています。
そんな中で昨年末に、今までの薬と違ってアルツハイマー型認知症の原因に直接働きかけるとされる新薬(アデュカヌマブ)が厚生労働省の専門部会で継続審議とされたという報道がありました。
日本の大手メーカーなどが開発したこの新薬は、認知症の原因とされるタンパク質「アミロイドβ」の脳内での蓄積を抑えます。認知障害が軽度の段階から使うことにより認知症の進行抑制が期待できるとされていますが、神経細胞の働きを失わせるアミロイドβが減っても認知症の進行抑制ができない患者がいて関連性が十分に明らかではなく、2つの治験データのうち1つは薬を投与した群とそうでない群に差がみられないと指摘されました。
また投与された患者の約35%で脳内に浮腫がみられたことで、有効性と安全性の再検討が必要だとされました。
さらに、この薬は高額なため昨年承認された米国でも使用が広がらず、標準的な体格の患者で年間約630万円だった価格を今年になって約320万円へと半額に引き下げたものの高額であることに変わりはないという事情もあります。
国内で現在使われている4つの薬は、脳内神経伝達物質の濃度や流れに働きかけることで症状の進行を緩和・抑制するとされていますが、フランスでは2018年に副作用の割には効果が高くないという当局の判断で医療保険の適用対象から除外となり、有用性の面で日本国内でも議論は続いています。
このように医薬品による治療にはまだまだ問題点が多いことも踏まえて、認知症患者への対応の基本は早期治療ではなく、あくまで早期介入であるとされ、具体的に以下のようなことが挙げられています。
①日常生活動作(ADL)の低下は認知機能の低下によるもので身体的に出来ないのではないことから、1つずつ出来ること・出来ないことを見分けて、見守りや具体的な指示をしてあげる
不安や寂しさ、疎外感からくる被害者意識・物盗られ妄想などがあることから、難聴や独居も要因となる
65歳以上の約半数に難聴があるとされ、うつや認知症との関連が示唆されています。補聴器は2018年から医療費控除の対象となっているので、考慮すべき対策の1つだと思います。
現時点で言えることは、まずは普段から接する身近な方が、言動や性格の変化、日常生活動作における支障などに早く気付いて適切に援助してあげることが、認知症の患者さんにとって一番のクスリのようです。