身近な化学物質による水環境汚染

皆さんは身近な化学物質による環境への影響について知っていますか?

身近な化学物質とは現在のわたしたちの健康的で衛生的な生活を維持するために、見えないところで様々な化学物質が使用されています。

身近なものでは医薬品の成分、化粧品やシャンプーなどに含まれる防腐剤、歯磨き粉などに含まれる抗菌剤、日焼け止めに含まれる紫外線吸収剤などがあります。このような医薬品類やわたしたちの生活に身近な製品はPPCPs(医薬品・生活関連物質)と呼ばれています。

化学物質を使用後の流れ
わたしたちの使用した化学物質は、使用後全てが分解されて無くなるわけではありません。
例えば、医薬品は体内で効果を示した後に一部は分解されますが、一部は全く分解されずにそのまま尿や糞便中に含まれて排泄されます。塗り薬についても、一部は体内に吸収されて排泄されますが、皮膚に残ったものは入浴時などに洗い流され排水溝へ流れていきます。

化学物質がたどる経路
トイレや浴室などから排出された家庭排水は下水処理場で処理されるか、各建物に備わっている浄化槽で個別に処理・浄化された後、河川や海域に放流されています。
つまり、わたしたちが使用した化学物質も同じように海へと流れていきます。汚れた水を浄化してから放流することで河川や海域の水質汚濁を防いでいますが、この排水処理過程でPPCPsに含まれている化学物質が十分に分解・除去されているかどうかはあまり注目されていませんでした。

化学物質による環境への影響

近年、化学分析法の開発や分析装置が高性能になり、環境中の極微量な化学物質の測定が可能になってきました。それによって、環境中の化学物質による汚染の実態調査に関する研究も進みました。
その結果、わたしたちの使用したPPCPsに含まれる一部の化学物質が、排水処理過程で十分に分解・除去されずに放流水中に含まれていることを指摘する研究調査の報告が増加しています。なかでも注目を集めたのは、インフルエンザ患者の増加する時期に河川からインフルエンザ治療薬の成分が検出されたことです。
これらの成分による水環境汚染によって直ちに何らかの影響があるとは考えられてはいませんが、既存の薬に対する耐性を持った新種のウイルスの発現が懸念されています。また、河川などの水環境中への抗生物質の流入による耐性菌の出現なども問題となっています。

抗生物質は人が使用したものだけでなく、家畜や養殖業、製造工業の排水など様々なところから流れ込んできます。現在の排水処理の技術では完全にこれらの成分を取り除くことができないと言われており、ほんのわずかな抗生物質でさえ耐性菌の出現に大きな影響を与える可能性があると考えられています。また、日本だけでなく世界の河川からも抗生物質や耐性菌の検出があると報告されています。