認知症とクスリ(その2)

昨年3月号の医薬だよりに記事を掲載した以降も認知症の新薬に関する話題には事欠かず、日本でもレカネマブという薬が今年1月に承認申請されました。

まず新薬との違いを知っていただくために既存の認知症薬の効果を簡単に説明すると、脳内神経の働きを活発にして症状の進行を抑制・緩和させる「対症療法」薬であり、完全に治すことができる治療ではありません。

これに対して世界中で実用化に向けて現在しのぎを削っている新薬の多くは、脳内に蓄積して認知症の原因になるとされるタンパク質「アミロイドβ」を除去することで認知機能の進行抑制が期待できるとされています。

ただし、これらの新薬もまだ完全に治せる「根治療法」薬ではありません。
神経細胞の働きを失わせるアミロイドβは20年以上かけて脳内に溜まるとされていますが、新薬の最終治験期間は18ヵ月間であり、症状の悪化抑制がどれだけ続くのかは不明で、今後の検証課題とされています。

また治療対象となるのは軽度認知障害を含む早期アルツハイマー病でアミロイドβの蓄積が確認できた患者であり、病気そのものに気付いていない患者の存在や、アミロイドβの蓄積を確認するための精度の高い陽電子放出断層撮影(PET)検査は今のところ医療保険の対象外なので費用も高価です。

さらに副作用として報告されている脳内の浮腫や微小出血は無症状のことが多く、発見のために必要とされる磁気共鳴画像(MRI)検査が受けられる国内の施設も画像を診断できる専門医も限られています。

昨年の記事でも触れましたが、薬そのものが高価であることも大きな問題です。
レカネマブを今年1月に迅速承認した米国での価格は年間約350万円で、日本で承認されたとしても高い価格が予想され、高額な検査費用と合わせて考えると、国内に数十万人以上いると推計される対象患者で実際に治療を受けられる患者はごく一部のみになると思われます。

団塊の世代全員が後期高齢者となり、65歳以上の約5人に1人が認知症で、その約3分の2がアルツハイマー型認知症と推計されている2025年(令和7年)はもう目前に迫っており、待ったなしの状況です。

開発中の新薬の対象とならない中等度や重度の認知症患者の治療法や、薬が効きやすい患者や実際に使うべき時期の明確化、またアミロイドβと関連して認知症の原因として疑われているタウ蛋白に作用する薬の開発や使い分け、併用の効果など明らかにすべき問題はまだ山積されています。

前回の記事でも最後に触れましたが、現時点で我々にできることとして、まずは普段から接する身近な方が、言動や性格の変化、日常生活動作における支障などに早く気付いて適切に援助してあげることが、認知症の患者さんにとって一番のクスリだと思われます。