我が国では、心疾患はがんに次いで死因の第2位を占めています。中でも高齢者の心不全が著しく増えており、今後も高齢者の増加に伴い、「心不全パンデミック」が予想されています。パンデミックとは、「大流行」という意味で、心不全が大流行と思われるくらい増えてくる可能性があるといわれています。
心不全パンデミック状態になると、入院医療が必要な高齢心不全患者さんであふれ、病院が他の患者さんを受け止めきれなくなる事態が想定されることや莫大な医療費がかかることなど、社会的な問題が起こる可能性も考えられます。
心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。運動耐容能が低下していき、日常生活に困難をきたします。運動耐容能とは、その人がどれくらいまでの運動に耐えられるかの限界を指します。急激に悪化して入院すると、急性期の治療を行います。しかし、治療で改善しても全く元通りのところまではよくならないため、心不全の悪化による入院を繰り返すたびに、心臓の働きや患者さんの状態は悪くなって、最終的には死に至ってしまいます。ですから、できる限り心不全による入院を繰り返さないような予防対策に重点をおく治療に変わっています。
心不全=運動耐容能低下と考えれば、運動耐容能を上げる治療を行います。それが難しくなれば少しでも苦痛を取るための緩和ケアを追加します。
普段の生活の中で出来ることは、塩分や水分の摂りすぎに注意し、飲酒の制限や禁煙、適度な運動を行うことなどが挙げられます。高血圧・糖尿病・動脈硬化性疾患の治療も重要です。インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを打つなど、感染予防も大切です。心不全の原因となるいろいろな心臓病にならないようにすることは重要です。
「心不全」になったら一巻の終わり、というわけではありません。治すことのできる心臓病があればその治療を行い、また長い目でうまく心臓病とつきあい、心不全の悪化を繰り返さないようにすることが最も重要なのです。その人の状態に合わせて作用の違う薬剤を組み合わせて使う薬物療法、運動療法、心臓リハビリテーション、埋め込み型除細動器やペースメーカーなどを組み合わせた治療を行います。息苦しさやむくみをとり、日常生活で出来ることを増やして生活の質を向上させ、入院を予防していくことが大切です。そのため病院で調整してもらった内服薬は、自分の判断で勝手に中断せず、何か気になる事や困ったことがあれば必ず主治医に相談することが重要です。水分制限の程度も、患者さんによって異なりますので、主治医に相談してください。どんなに気をつけていても、心不全が悪化してくることは防ぎきれませんので、悪化の兆候をいち早く察知する努力も必要です。
一番いい指標は体重です。1週間で2kg以上の体重増加があればかかりつけ医に相談しましょう。